ヴァンタン・二十歳の誕生日
 チビ。
私は十年前の私をそう呼ぶことにして、そっと寝顔を見た。


(まあ何て可愛いらしいんだろう)

自分の寝顔にキュンとなる。


(馬鹿か私は……)

そう思いつつベッドで眠るチビのポニーテールを見つめた。


(ずっとそのまま……)


何故だか解らないけど、これが答えのように思えた。


(私はきっと……パパに私だと気付いて貰いたくて……ずっとそのままこのヘアースタイルだったんだ。そうだきっと……パパを探す為に此処へ……。そうか。やっぱりこれがタイムスリップなんだ)




 私はこの答えが正解か否かを見極めるために、チビの体を揺すった。


その時、チビの枕元にあるパパのお土産に気付いた。


お伽話に出てくる魔法の鏡をねだった時、パパが苦し紛れに置いていってくれた物だ。


私は本当はそれで良かったのに……

パパの事苦しめてしまったらしい。

その時、私は忘れ物に気付いた。

それはこの手鏡と対になった物だった。

あの魔法の鏡の中で遊んでいた時、落とした物だった。


(ってゆう事は……これから二人であの鏡の中に入るのか? パパが見つけてくれた、本物の魔法の鏡。あの中に再び……
チビの私と一緒に……)




 又二人? だけの冒険が始まる。
忘れ物を探す為に……

行方不明になっているパパを探すために……


(そうだった。パパが行方不明になった時……私は屋根裏部屋でこの鏡を見つけたんだ。パパを探しに行ったあの部屋で……どうして忘れていたんだろう? どうしてあの部屋だったんだろう? 一体屋根裏部屋に何があると言うのだろうか?)


私は何となく手にした手鏡を、ハーフパンツのポケットの中に入れていた。


そう自分でも気付かないうちに……




 やっと目を開けたチビは眠たそうに目をこすった。


「おねえさん誰?」
判る筈がない。
私も今の今まで考えも及ばなかったのだから。


(私は確かに十年前、鏡の世界へお・ね・え・さんと入った。そしてそれは……パパを探す為だった……)

何故今まで忘れていたのかを知りたい。
その答を得る為に、もう一度あの鏡の中に入らなければいけない。

私はその事を知りながらきっと此処に来たのに違いなかった。




< 11 / 52 >

この作品をシェア

pagetop