ヴァンタン・二十歳の誕生日
再会
 チビは夢の中で戦っているのだろう。

私はチビに言われた通り試してみたくてもう一度チビを背中におぶった。


「ボンナバン!」
私は曳航された船に気合いを入れて飛び移った。


着地した時の足の痺れと痛み。それらが何故か気持ちいい。

だってパパに会えるかも知れないから。
やっと記憶の底に眠っていたパパに……たどり着くことが出来たから。
だから嬉しいんだ。


例え幽霊船の骸骨達に魂を乗っ取られていたとしても私は嬉しいのだ。

チビとの冒険に出発した事を誇りに出来るように……

チビに同じ体験をさせる為に……

パパを感じられる為のリボンに託す。


そして今改めてパパを探し出そうと誓った私だった。


大きめのTシャツ。
ハーフパンツ。

動き回るのには丁度良かった。
私はやはりこの為に、何時もこんな格好で眠っていたのだ。


そうパパを助け出す為に。




 大型客船の甲板はとてつもなく広かった。

きっと此処で甲羅干しなどして居たのだろう。


プールもあるのも存在するらしい。
パパは何時か、そんな船の船長になりたいと言っていた。


でも私はイヤだ。
もっとパパに会えなくなるから。

だって大好きなパパとこれ以上離れたくなかったから。


優雅にクルージングを楽しむための豪華客船。

その船長で充分だ。
私の誇りだったパパ。


(パパー。今まで忘れていてゴメンね)


何時か、母と訪れた事のある船。その記憶にある船長室を探す。




 あれは何かのイベントだった。


小さかった私はパパの帽子を被らされて……

それでもご機嫌だった。


久しぶりパパに会えたからだった。
肩車をしてパパより大きくなったからだった。




 そんな思い出が蘇る。
それも急に……


私は何かによって記憶を封鎖されていたのか?


そっとドアを開けてみた。


でも其処にはパパ居なかった。


(そうだ。操舵室だ。だってパパは船長なんだから……)




 記憶を頼りに操舵室を探す。

でもそれは困難を窮めた。

大型客船の部屋数はとてつもなく多かったからだ。


それに此処へ招待されたのは確か十年以上も前の事。

何処に何があるかなんてとうに忘れてしまってる。

第一パパとの思い出さえ失ってもいたのだ。

自信などある筈もなかったのだ。




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