ヴァンタン・二十歳の誕生日
屋根裏部屋
 母から携帯を受け取って、階段へと向かった。

その途中で早速携帯を開ける。
電池アイコン表記は百パーセント。
つまり……、満タン状態だったのだ。


(流石ー。お母さんありがとう)

母の細やかな気配りに感謝しながら階段を上る。


(ん? てな事は? 携帯がフル充電される程長湯だったって事? そりゃ呆れられる筈だわ。お母さんごめんね)


私は母に心配ばかり掛けているようで何となく悄げていた。


「ん!?」
何か違和感がある。
階段がもう一つ……


(えっ、この景色!? あれっ!? 何だか昔見たような……)

何故だかそう思った。


でも元々此処に階段は無かった筈だった。


(廊下の真ん中に階段? まるで宇宙に続くみたいだなー)

そう思った瞬間に体が浮いて、私は階段に引き込まれた。

ってゆうか、強制的に上らされていた。


(ヤバい! きっとUFOだ)

咄嗟にそう感じた。
でも不思議と恐怖心は感じられなかった。


私は何故か、安らぎさえ感じていた。




 廊下の上に収納階段があったなんて……

すっかり忘れていた。


気にはなっていた?

そう少しは……


だって長四角の鍵付きの枠が廊下の天井にあったら、誰だって気にすると思う。

それが何かを確認しなくても……




 其処は屋根裏部屋だった。


(わー。懐かしい!!)

頭の何処かで何か弾けた。

まるで記憶喪失みたいに、ベールに包まれた何か……

今確実に体の中で蠢き始めた。


私は、もう一度何かを感じるために目を瞑る。


(そうだ。此処は……)

この場所には沢山の思い出があった。


此処で寝なくなって何年が経ったのだろうか?


ハイジやアンに憧れ、物置だったこの屋根裏部屋に引っ越した。

あれは確か十歳になる前日だった。


突然現れたお・ね・え・さんと一緒に冒険に出発したのだった。

何処へって。

あれは確か鏡の中……


そうだパパのお土産の魔法の鏡だった……。




 その時。
不意に思い出す。
行方不明になったままのパパの事を。


十歳の誕生日に帰って来なかったパパ。
そうだ。
あの日からずっと、行方不明のままだった。


(何故今頃? 何故急に……何故思い出したの?)



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