叢雲 -ムラクモ-
町で一番高いところにある時計が九時をさす。

時計台の下、俺たちは立ち尽くしていた。

「本当にここまででいいのかよ。送ってくぞ」

「いいの。お母さんとかに会うとまずいし……」

「……」

まあ……そうだよな、うん。

「それじゃ! 明日学校でね」

「おう」

北川は下駄をならして走っていった。

帰り道……絶対転けるぞ、あいつ。

北川の将来に不安になりつつ、まあその将来に俺がいれば問題ないわけだと考えて、やめた。

「……いるわけねーし」

たとえお互いが惹かれあっていようとも、親やなんやらが許すはずもねえ。

そう考えたら、ついさっきまでの時間や海でのことが無意味なように思えてきた。

……どーなるんだろうな、俺。










言い様のない気持ちを抱えつつ、結局俺は不快な汗を流しながら北川や岸田と坂をのぼっているのだ。

「先生ー」

「なんだよ」

そういや『先生』って呼ばれんのは約一ヶ月ぶりだ、と少し新鮮な感じを覚える。

「暑いよー」

「俺もー」

「おい……お前ら俺より若いんだからよ、弱音はいてんじゃねえ。特に岸田、お前男だろ。耐えろ」

駄目だ、こいつらと話してると暑さが倍増する。

俺は汗を拭こうとポケットに手を突っ込んだ。……あ。

「北川、いい加減にハンカチ返しやがれ」

「あ。ごめーん……」

違うハンカチを持ってこない俺も俺だがな。
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