叢雲 -ムラクモ-
天使は言う。

それだけにしとかないと後悔することになるわよ、と。

悪魔は言う。

恋人なんだからもうちょっとぐらいいいだろ、と。

しばらく決闘の末に、左手を握る力が強くなったためあっさり天使は陥落。

俺は残り少ない理性で悪魔をある程度制御しながらも、一瞬唇を離した。

「はあっ……」

予想通り北川は息を十分にするため唇を開ける。狙ったのはそこだった。

開いたままの唇に、少し角度を変えてもう一度触れた。

舌をすべりこませれば、後頭部に移動していた右手が押された。北川が身を引いたんだろう。

だが驚いてる北川に構ってやれるほど俺は優しくない。

逃げ腰な舌を追いかけて、絡め取って、軽く吸う。

北川は俺に追い付こうと、頑張って舌を絡めてくる。つたないが、それも愛しい。

時折もれる北川の甘い息に惑わされそうになりつつ、深く口づけた。










「花火、終わっちゃったじゃん……」

まだ荒い息で、開口一番がそれだった。

まあな。キスしてる間に、花火なんかとっくに終わっちまってた。

「気持ち良かったろ?」

「なっ……!」

ようやくひいてきた赤みが、また北川の顔を支配した。

ふと辺りを見回すと、他のカップルはもうここいなかった。

ところで、周りから見れば俺たちもそういう、恋人同士に見えてるんだろうか。

……見えてるといい。と結構マジに思う。
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