叢雲 -ムラクモ-
「駄目だよ先生。ホント駄目。もう無理」

「ったく、だらしねえな」

まだ息の荒い北川の背中をさすりつつ、そういえばチャイムが鳴っていたことを思い出す。

「お前、次の授業なに?」

「えーと、音楽!」

「あ」

だから坂上先生、いつにも増して声が高かったのか。

「え? どしたの?」

「いや、なんでも」

頭にハテナを浮かべる北川の頭を叩いて立ち上がり、痛いだのなんだの騒ぐ北川にハンカチを差し出す。

「顔洗ってから授業行け」

汗だくのままじゃ、リコーダーもまともに吹けん。

「……うん!」

手洗い場に走っていく北川を後ろから呼び止めて、裏を使えと言った。

……表は朝、汗ふくのに俺が使ったからな。










チャイムが鳴った。

……はっきり言う。俺はチャイムなんてのは大嫌いだ。時間に縛られてる気がしてならねー。

次鳴ったら始まり、次鳴ったら終わり。

行動を全てチャイムに決められてるみたいだ。うっとうしい。

まあそんなチャイムも、四時間目終了を告げるものだけは普通の部類に上げてやってもいい。

なんせ、ようやく俺の教室に戻れるんだからな。

「弁当の前に手洗ってこいよー」

つーか、もうみんな食べ始めてやがる。

俺も食おうと、余ってる机から椅子を持ってきて教卓と黒板の間に座る。

「……先生」

日本人としてはおかしな青い瞳を、俺が広げるコンビニ弁当に向け、教卓をはさんで向かい側に北川が歩いてきた。

「どうした。弁当忘れたか。親からは届いてねえぞ」

「う……うん。早弁しちゃってさー。先生のちょっと頂戴?」

そう言って笑う北川に、俺は妙な違和感を感じた。

「お前、早弁とかする奴だったか?」

「あ、あたしだって、空腹に負けることもあるよ。ほら、先生に走らされたし。そのかまぼこ頂戴!」

「やらん。お前、なんか隠してないか?」

「か、隠すって……何を。かまぼこ駄目ならポテト頂戴!」

「……」

話しそうにないという結論に達した俺は、とりあえずポテトを北川に与える。

おいしーと幸せそうな顔をする北川を何か変だと思いつつ、己の空腹を満たすために割りばしを動かした。
< 5 / 45 >

この作品をシェア

pagetop