叢雲 -ムラクモ-
「北川ゆずぅ?」

「ああ。知らねえか?」

案の定体育館裏には不良どもがたまってた。

岸田はふたつ上の不良先輩に怯えてんのか、俺の服のすそを握ってやがる。……連れてくるんじゃなかった。

「北川ってーと、あの青い瞳の奴だよなぁ」

リーダー格だろう男が仲間に振り返る。

「そうです。一年のガキですよ」

なんで北川、こんなに有名なんだよ。

「北川ゆずなら、女に連れられてトイレに入ってくのをこっから見たぜぇ。確か女だけ出てきたが、北川ゆずは出てきてねぇ」

「どこのトイレだ」

「三年」

また校庭横切んのかよ、面倒くせー。

「北川の居場所教えてくれてサンキューな。けど……こんな所でたむろってる暇があんなら、家に帰って教科書広げてろよ?」

ニヤリと笑ったら、不良どもの顔がひきつった。










「あそこから見える三年校舎のトイレっつーとここしかねえな」

俺は幾分かすっきりした気持ちで、目の前にある男女ふたつの入り口を見据えた。

「……なあ、松ちゃん」

「あ?」

「三年の先輩……大丈夫なのか?」

「大丈夫だろ」

死なねえ程度に手加減はした。

「俺、松ちゃんがあんな強いなんて意外だったぜ」

「不良どもは鉄拳につきる」

「かっこよかったな……あん時の松ちゃん。不良たちを、かるーく殴り飛ばしちゃってさ」

つい先程のことをぼーっと思い出している岸田は置いてきぼりにして、俺は女子トイレに入った。

「……北川、いるか?」

「……せんせ?」

か細い声が返ってきた。

それだけのことに酷く安心したのはどうしたことだろう。

「ああ。俺だ」

「先生……!」

ひとつの個室から、だんと扉を叩いた音がした。一番奥の個室だ。

その個室の扉は、ご丁寧にもガムテープが幾重にもはりつけられており、ちょっとやそっとじゃ開きそうもない。

「……岸田、手伝え」

今こそお前の出番だ。
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