叢雲 -ムラクモ-
「あー……一年二組、北川ゆず。校内にいたら速攻で教室に戻ってこい。俺を待たすんじゃねえぞ」

以上。

「北川さん、何かあったんですか?」

放送室を出てすぐ鉢合わせた坂上先生に曖昧に首を振り、そういえば、と話を変えた。

「二時間目の音楽、北川遅れたのすんません」

「ああ、松村先生のせいだそうですね」

北川の正直者め。そこはうまくごまかしとけよ。

「もう二度と北川さんに、もちろん他の生徒にもですが、あんなことをさせないように!」

黄色い声は、校舎に響いた。










思わず舌打ちをした。

もう放送してから十分にもなる。学校のどこにいようが、十分もあれば教室に戻ってこれるはずだ。

……戻ってこれねえ状況にあるって事か。面倒ごとはごめんなんだがな。

仕方なく、今日のテストを採点していた手をとめて立ち上がり俺は教室を出た。

とりあえず、不良のたまり場である体育館裏にでも行ってみようかと校庭を横切ったとき、

「松ちゃん!」

「あ……岸田」

裏門から岸田が学校に入ってきて、走って俺のとこまでくる。

確かこいつは帰宅部だ。何で学校に戻ってきたんだ。忘れ物かなんかか。

思ったことをそのまま聞けば、うんとううんが返ってきた。

「十分くらい前に忘れ物とりに来たら、松ちゃんの放送が聞こえてさ。北川いないみたいだったから、家に行ってみたんだ」

「それで?」

「……いなかった」

役に立たん奴だ。

深いため息をついてこめかみを押さえたら、でもと岸田は言った。

「協力すっからさ! 北川捜すの。俺、そのつもりでまた学校戻ってきたんだし」

北川と岸田って、仲良かったっけ?

頭に浮かんだ疑問に、どうでもいい事だと自分でケリをつける。

「松ちゃんどこ行こうとしてたんだ?」

「体育館裏」

こいつが役に立つかどうかは別として、二人いれば捜すのも楽になるだろう。
< 8 / 45 >

この作品をシェア

pagetop