清子
二人と別れて、階段を登ると、寮の全貌を見ることが出来た。
木造だが、どこか西洋の気配を感じさせるつくりの寮である。

「きっと素晴らしい建築家の設計なんだろうなぁ」

そう呟くと、清子は引き戸に手をかけた。
ガラガラと音が鳴り、ひんやりとした玄関の空気を身体に受ける。

「こ、こんにちは〜…」

小声で言うが、人の気配はない。
とにかく寮長室だ。
清子は部屋たちの扉を見上げた。

「えーと、寮長室、寮長室は…と。あ、ここねぇ」

寮長室は他の部屋と違い、クリーム色の木で出来た優しげな色をした扉だった。
それでなんだか清子は安心してしまったのである。
…中で何があるかも知らずに。

「…ノックを三回、笑顔、笑顔、すぅ、はぁ
…」

「ごめんくださいなぁ〜~ぁ…あ!?」

せめて、キャーとかイヤーとか乙女に相応しい叫び声をあげれば良かったと彼女は後に後悔するのだが、そこには異様な光景が広がっていた。

散らばったビールの瓶やつまみの類や原稿用紙。乱れた布団。そして何より、そう、そんなことよりも、

裸の男女が横になって寝ていたのである。

清子が口をパクパクしていると、男がのっそり起き上がった。割と細め、いや、痩せていて肌は白い…。

「…あれもう朝…。あれ、なんで女生徒が…?あー、しまった、今日でした、最初の生徒が来るの…ったく、早すぎですよっと…ほら、奈津子さん起きて。」

ブツクサ言いながら、ナツコさんという女性を起こす。

「え、なに…?」

ナツコさんは一瞬ポカンとしていたが、すぐに青くなって清子と彼を交互に見つめた。

「そこの君、取り敢えず、15分間だけ外に出るように。」

ビシィッとそう言われ、呆然としたまま

「あ、はい」

無愛想に応えて、先程の外の階段で青い空を雲が流れる様子を清子は眺めた。

ーーーひどく長い時間に感じられた。






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