甘い恋飯は残業後に
「別に弱みを見せたくないって訳じゃないですよ。だって恥ずかしいじゃないですか、上司に泣き顔を見られたなんて」
冗談っぽく切り返そうとしたら、わざとらしいぐらいの明るい声になってしまった。
さっきから何やってるんだろう。ことごとくおかしな方向にいっているなというのは、自分でもよくわかっている。
難波さんはグラスの中身を呷ってから、長いため息をついた。
「上司の前で泣きたくないというなら、俺を上司だと思わなければいい」
その提案は、いきなり斜め上から降ってきた。
「……何言ってるんですか。そんなの、無理ですよ」
「じゃ、これならどうだ?」
彼が小さく笑ったのが視界の隅に映る。何を企んでいるのか。
「俺は桑原の兄の友人で、難波宗司という、ただの男だ」
――ただの男。
その言葉に何故か、胸がざわめく。顔を上げていられなくなる。
「……難波さんは、わたしをそんなに泣かせたいんですか」
俯いて吐き出した言葉が、テーブルの上を這う。
うまくやり過ごそうとしているのに。この人は。