甘い恋飯は残業後に
「ひ……っ」
「おはよう」
振り向けば、そこには難波さんが立っていた。いつもと同じ仏頂面でこちらを見ている。
「おはよう……ございます……」
わたしは目を見開いたままで、でも何とか挨拶は返した。
いつもは朝礼十分前に来るのにどうして――。
ありえない展開に困惑する。
「エレベーター来たぞ」
「え? あ……」
「何ぼーっとしてんだ……お、っと」
いきなりわたしの顔の横からぬっと手が出てきて、心臓が跳ね上がった。その手は閉まりそうになった扉を押さえている。
わたしは真後ろの気配に押し出されるようにしてエレベーターに乗った。無論、わたし達の他には誰もいない。
この状況、どうしたらいいのか。気まずすぎる。
「……土曜日」
「へっ?!」
話しかけられて、思いきり素っ頓狂な声を上げてしまった。
挙動不審もいいところだ。これでは難波さんにおかしく思われてしまう。
わたしは小さく息を吐き出し、冷静に冷静に、と心の中で自分に言い聞かせた。