甘い恋飯は残業後に
「駅まで迷わず辿り着けたか? 送っていけばよかったのに、そこまで気が回らなくて悪かったな」
「あ……いえ、案内の看板をすぐに見つけたので大丈夫でした。わたしこそ、いろいろとご迷惑をおかけして、すみませんでした……」
本当は頭が混乱していたせいで、住宅街をしばらくさまよってしまったのだけど。
わたしは難波さんの顔を見ないように、深々と頭を下げた。
「気にするな。それより、今日は随分早いんじゃないか?」
それはこっちのセリフですよ! と言いたいところをぐっと堪える。
「……先に来ていた方が、まだ気が楽かと思って」
「なるほどな。……まあ、桑原ならそう考えるだろうとは思っていたけど」
思考が単純だとでも言いたいのだろうか。難波さんはふ、と小さく嘲笑にも似た笑みを漏らしている。
「しれっとしてろ。どうせ本当のことなんて誰もわからないんだ、桑原が平然としていれば周りもそのうち忘れるだろう。人の噂も七十五日、って言うし」
そういえば、難波さんもあの祝勝会の時に先輩から人に知られたくないようなことをばらされていたな、と思い出した。たしかにあの後、店に戻ってから何事もなかったように涼しい顔をしていたっけ。