甘い恋飯は残業後に
彼女から切り出すまで待った方がいいかな。給湯室に入った時まではそう思っていたのだけど、居心地の悪さにどうにも我慢出来なくなった。
「……あのさ」
水上ちゃんの背中に声を掛ける。肩が僅かに震えたように見えた。
「ゆうべはありがとう」
「……えっ?」
水上ちゃんはこちらに振り返り、驚いたように目を見開いている。
「あの後、水上ちゃんに言われたことをずっと考えてたの。わたしは“愛され慣れ”してるのかなって」
彼女は気まずそうに俯いた。
「慣れているのかどうか、考えれば考える程よくわからなくなった。ただ、水上ちゃんからそう言われたことで、気づかされたことがあったの」
わたしは湯呑を手に取り、乾いた布巾で拭きながら続ける。
「わたしは思い込みが強すぎて、人の言葉を素直に受け取れないところがあるんだよね。そのせいで、深く人を傷つけてきたのかもしれないなって」
自分の内面のことを話すのは、どんな内容であれ、いつも怖さが先に立つ。でも水上ちゃんにはごまかしたりせず、ちゃんと自分の考えていることを正直に話さなければ、と思っていた。
給湯室の狭いカウンターに、湯呑を並べる。お湯もそろそろ沸きそうだ。