甘い恋飯は残業後に


「単純ですね、私」

そう言って「えへへ」と笑った水上ちゃんは、本当に素直で可愛い。

「その単純さが、水上ちゃんのいいところなんじゃない?」

「何か、褒められている気がしないんですけどー」

水上ちゃんは口を尖らせながらも顔は笑っている。わたしも声を上げて笑った。


まだ、恐怖心は全て拭えてはいない。でもほんの少しだけ、殻にひび位はいれられた気がする。

ひとしきり笑ったところでほっとしたのか、わたしは重要なことを思い出した。

「いけない! 今日って十時半から店舗営業部の全体会議だったよね?」

電気ポットが、カチリと設定温度になったことを知らせる。水上ちゃんは並べた湯呑に乾いた布巾を被せて、こちらに振り返った。


「ああ、何か明日に延期になったみたいですよ」

「延期?」

会議が延期になるなんて、滅多にあることじゃない。


「今日緊急の重役会議が入って、難波さんがそっちに行かなきゃいけなくなったから、らしいです」

「緊急の重役会議なんて、今までそんなことあったっけ?」

「うーん……多分、なかったと思いますけどね」

何かあったのだろうか。水上ちゃんもそこまではわからないようだ。


「そうだ、会議で思い出したんですけど」

水上ちゃんはそう言って、一度給湯室の外に首だけ出して辺りを窺ってから、小声で続けた。


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