甘い恋飯は残業後に
朝礼後すぐに見えたクロスキッチンの社長様御一行にお茶出しを終え、自分の席に戻ったわたしは『美食ログ』内にある『Caro』のページを開いてみることにした。
画面をスクロールさせ、みんなのクチコミの欄を見てみると、確かに上からふたつめに怪しいタイトルが浮かんでいる。
『本格的なイタリアンコーヒーが飲めると謳っているくせに、飲んでみるとインスタント以下という有様』
『茹でたパスタにレトルトのソースをかけただけなんじゃないかと言われても仕方がない程の、安っぽい味だった』
“正義の鉄槌”というハンドルネームのこの人物は、これでもかと悪いことだけをあげつらってくれている。しかもインスタント以下とか安っぽい味とか、主観的な感想なだけに、運営サイトに連絡したところで削除してもらえる可能性はかなり低い。
この人物のクチコミは『Caro』に対する、この一件だけ。
何か『Caro』に恨みでもあるのか、それとも単に荒らすのが目的で、たまたま目についた『Caro』のページに書き込んだのか。
いずれにしてもこの件を二課が会議で上げてこないというのは、水上ちゃんの言うように確かにおかしい。
もしも明日の会議で報告がなかったら、わたしが質問してみようか。
いや、その前に――。
顔を思い浮かべたとたん、心臓が反応する。胸がじわりと熱くなってくる。
今日はまだ、難波さんの姿を見ていない。朝礼にも姿を見せなかった。あの人のことだから、また朝から『Caro』にでも行ったのだろう。
あのキスがどういう理由であれ、やっぱり彼の顔が見たい――凄く、会いたい。
「あ、桑原さん、外線」
「は、はい」
だめだだめだ。今は、浸っている場合じゃない。
募る想いを心の隅っこにぐっと押しやり、わたしは開いていた『Caro』のページを閉じて、電話を取った。