甘い恋飯は残業後に


彼はコーヒーを一気に飲み干し、それをごみ箱に捨てた。こちらを振り返った彼は、何となくさっきとは顔つきが違って見えた。憑き物が落ちたような、すっきりとした表情で微笑んでいる。

「今だったら、万椰のこともちゃんとわかってやれたかもしれないし、もっと大事に出来たかもしれないな」

「あの頃だって、十分大事にしてもらったよ。わたしが、臆病だったのがいけなかっただけで……本当に、ごめんなさい」

ずっと、心に引っかかっていたことが、ぽろりと口から零れた。


「……謝られると、何か、刺さるな」

彼の言葉の意味はよくわからなかったけど、問いただすような真似はもちろんしない。

「付き合うなら、一度でも挫折を味わったことのある人間の方がいいと思うよ、万椰には……って、余計なお世話だな」

あの人は確か、一浪して大学に入ったと言っていた。それが挫折したということかどうかはわからないけど、少なくとも人の気持ちを推し量ることの出来る人だ。


このままでいいんだろうか。

美杉さんのことを本人に確かめもせず、かといって諦めることも出来ず、うじうじと悩んで――わたしはまた、逃げようとしている。


「じゃ、俺は仕事に戻るわ」

「身体壊さないように、程々にね」

「ああ、ありがとう」

青柳はエレベーターホールの方へと消えていく。わたしはその姿をぼんやりと見送った。


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