甘い恋飯は残業後に
どれくらいそうしていたんだろう。
手の中の缶コーヒーはわたしの体温と同化して、すっかりぬるくなっている。リフレッシュスペースにある時計を見上げれば、針はまもなく九時半を指そうとしていた。
「九時、過ぎてた……」
難波さん、待っているだろうか。
わたしがずっと考えていたのは青柳のことではなく、難波さんのことだった。
彼が部長として着任した時は、自分勝手で本当に嫌な上司だと思っていた。今だって自分勝手なところは変わっていないし、振り回されることもある。一体いつからこんな感情に変わってしまったのか、遡ってみても境目はよくわからない。
嫌いなままでいられたら楽だったかもしれないのに。そう思う反面、彼を好きになったことで、何となく自分が変わっていってるような、そんな気もしている。
やっぱりこのままでいい筈がない。
――と、バッグの中の携帯が派手な音を鳴らした。
案の定、画面表示には、彼の名前。
「……もしもし」
『今どこにいる?』
てっきり怒った声が聞こえてくるかと構えて出てみれば、予想とは裏腹に落ち着いた優しい声でドキリとする。
「……会社です」
『会社?』
難波さんが不思議に思うのも当然だ。何て言い訳しようかと考えていると、先に難波さんの方が声を発した。