甘い恋飯は残業後に
「どうした、そこに早く座れ」
「あっ、はい」
買ってきたものをテーブルに並べる。ラタトゥイユ、アボカドとサーモンの生春巻き、生ハムとクリームチーズのサラダ、バゲット……その他にも数点。冷静に見てみると、全部お酒に合うようなものばかりだ。
飲みたくなるところだけど、自分用のお酒は買ってこなかった。飲んだら帰れなくなりそうで。
「俺もさっき買ったノンアルコールのカクテルでいい」
「えっ、飲まないんですか?」
「ああ」
わたしに気を遣ったんだろうか。
わたしはふたつのグラスにそれを注いだ。カチリとグラスを合わせる。
割り箸を割ったところで、何だか急に緊張してきてしまった。仮にも上司の家で、わたしは一体何をやっているんだろう。
「生春巻き、うまいぞ」
「はい、いただきます」
わたしが春巻きを齧ると、難波さんは何故か小さくため息をついた。
「何でさっきから敬語なんだ」
「……は?」
「もうプライベートの時間だろ」
いきなり何を言い出すのだろう、この人は。
「そんなこと言われても……別に、わたし達は付き合っている訳でもないですし」
そう言ったら、心臓に針を刺したような鋭い痛みが胸に走った。
……でも、現実は今自分で言ったとおりだ。
わたし達はゆうべキスをしただけ。それだけ。
好きだと言われてもいないし、わたしも言ってない。
「……そうだったな。悪かった」