甘い恋飯は残業後に



難波さんはどこへ行くとも言わず、車を走らせている。いや、それだけじゃない。車に乗り込んでからというもの、彼はひと言も発していない。

甘い空気から一転、どうしてこんなことになってしまっているのだろうと、わたしは喋らない運転手の隣で戸惑っていた。


「あの……どこへ行くんですか」

このまま黙っていても埒が明かない。思い切って尋ねてみると、難波さんは何かに気づいたように「ああ」と言った。

「何が食いたい?」

え、今頃?!

思わずそう言いそうになって、慌てて呑み込む。


「何がって、何処か当てがあったから車で出たんじゃなかったんですか」

「……いや、取りあえずそうしただけだ」

難波さんにしては煮え切らない言葉を並べるものだから、余計に困惑してしまう。

一体どうしたんだろう。

難波さんは元々、考えていることが顔に出るタイプじゃない。

恐る恐る、彼の方を窺う。仏頂面なのはいつものことだけれど、眉間の皺が幾分深い気がする。


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