甘い恋飯は残業後に
羨望の眼差しでこちらを見ている彼女を尻目に、わたしはデスクの上のパソコンに電源を入れた。朝礼の前にメールチェックぐらいは終わらせておきたい。
わたしがパソコンに視線を移しても、水上ちゃんは構わず話を続ける。
「山西さんって比較的イケメンだと思うんですけど、あのレベルでも万椰さんには無理なんですか?」
「別に無理とか、そういうんじゃ……」
「単にタイプじゃなかった、とか?」
わたしは小さく息を吐き出して、彼女に微笑んだ。
「今は、仕事が恋人」
「えー、なんか使い古された言い訳みたいですよ、それ」
水上ちゃんが『山西さん』と言った昨日の彼は、最悪だった。
どうやら、早くから会社のロビーで待ち伏せしていたらしく、わたしを見つけるなり、待ってましたとばかりに唐突に告白してきた。
丁重に断ると一旦は引き下がったものの、しばらくしてからわざわざ追いかけてきて
「思わせぶりな態度をしておいて、お前は男を翻弄するのが趣味なのか」
と、今度は訳の分からない言い掛かりをつけてきた。
あまりにしつこくて、そいつを振り切る為に仕方なく、ショッピングモールの下着売り場に駆け込んだぐらいだ。