甘い恋飯は残業後に


『バーサン』はもしかしたら、兄貴の大学で働いていた人なのかもしれない。今度実家に帰ったらどんな人だったのか聞いてみよう。忘れっぽい兄貴のことだから、もうちゃんと覚えていないかもしれないけど。



身支度を整え、冷蔵庫にしまっていたウォーターボトルを取り出す。専用のカバーにボトルを収め、隙間に保冷剤をいくつか突っ込んだ。

「わたしだって、これぐらいは出来るんだから……」

何をムキになっているんだろう、と自分でも思う。でも『何も出来ない人』というレッテルを貼られたままでいるのはどうしても嫌だった。


クローゼットからいつもよりも大きな鞄を引っ張り出して中身を入れ替え、それにウォーターボトルも入れた。

「よし、行くか」

今日は朝から『Caro』で仕事だ。昨日よりも人手が足りないらしい。

社に戻れるのはどうやら午後三時ぐらいになりそうで、抱えている仕事を考えるとため息が出そうになる。


……ほんと、いい迷惑。

わたしは、電車の窓から見える景色をぼんやりと眺めた。

唯一、良かったことと言えば、混雑している電車に乗らなくて済んだことぐらいだ。こうして久しぶりに朝の電車で座れたのは、ちょっと嬉しい。


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