甘い恋飯は残業後に


キッチンの窓を開けると、久しぶりにからっとした空気が室内に滑り込んできた。

初めてこのドリンクを作った時も確か、梅雨明けの辺りだったな、と思い出す。


兄の千里が大学でもサッカー部に入り、しつこく誘われて初めての試合を観戦に行った時、手ぶらで行くのも、とこのドリンクを差し入れた。

ライムを入れるのは、わたしのオリジナル。ライムの方がレモンよりもクエン酸が多く、疲労回復効果があると聞いたことがあったから。

みんなのドリンクの感想を聞きたかったのに、帰宅した兄貴からは『お前の妹すげー美人だとか、紹介してくれだとか、先輩から何から、もううるさくてうざかった』と感想のひとつもなく、心底がっかりした。


『バーサンが、もっと甘い方がいいってさ』

――が、思いきって聞いてみると、たったひとり、感想を言ってくれた人がいたらしい。


兄貴がどうしてこれをお婆さんに飲ませたのか、一体どこのお婆さんに飲ませたのかはわからない。

それでも、感想をもらえたことが凄く嬉しかった。

次の試合の時、観戦には行かなかったけど、前回のにちょっと蜂蜜を足したそれを兄貴に持たせてやった。


『バーサン、“合格”だってよ。良かったな』

それからというもの、このレモンライムハニードリンクを作る時は、このお婆さんの“合格の味”にしている。


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