甘い恋飯は残業後に
後を追うようにしてわたしもフロアへ行くと、彼女は既にカウンター席に腰掛けて、難波さんと楽しげに話をしていた。
――へえ。いつもは仏頂面のくせに。
「ちょうど今、淹れたところだ。桑原もそこへ座れ」
わたしが彼女の左隣に腰掛けると、わたし達の目の前にコーヒーが出された。
「わあ、ハートだ、可愛い!」
先に隣の彼女が驚嘆の声を上げたものだから、言葉を発するタイミングを失ってしまう。わたしはただ黙って、コーヒーの表面を見つめるしかなくなった。
「どうかしたか?」
わたしが何も言わないのを、難波さんは不思議に思ったのだろう。
「いえ……ちょっとびっくりして……」
「ラテアートにか?」
「ええ……。難波さんって、こんなことも出来たんですね」
「基本的な模様だけ、だけどな」
難波さんを視線だけで窺うと、彼はどこか勝ち誇ったような顔をしていた。何となく面白くなくて、すぐにコーヒーへと視線を戻す。
わたしの目の前に出されたコーヒーには、クリームで描かれた葉っぱが浮かんでいる。
――彼女にはハートで、わたしには葉っぱ、か。