甘い恋飯は残業後に



――『中身はスッカスカだっていうのにね』

――『万椰は容姿のことを否定したら、何にも残んないんだからさ』



さっきの言葉と、この間の兄貴の言葉が、頭の中で交互に響く。
喉の奥が、ぎゅっと苦しくなった。立ち止まり、慌てて深呼吸する。

こんな些細なことでいちいち泣いてなんかいられない。絶対に、傷つくもんか。

嫌な言葉が頭に響くたび、そう心で唱えて打ち消す。


「――桑原」

呼ばれた声に顔を上げると、そこにいたのは難波さんだった。一緒にいたリテール本部の部長に挨拶をして、こちらに近づいてくる。

「……どうした?」

「……いえ、別に。お疲れ様です」

難波さんが気になる程、わたしは妙な顔をしていたんだろうか。頭を下げて足早にそこから立ち去ろうとすると、何故か難波さんが追いかけてきた。


「ちょっと待て」

後ろから腕を引かれ、強引に足止めされる。

「何ですか、一体。わたしに何か用ですか」


< 88 / 305 >

この作品をシェア

pagetop