甘い恋飯は残業後に
「俺が泣かせているみたいだな」
幸い、人通りはない。会議室にいた人達も、もういい加減戻っただろう。
「……酷い男ですね」
誰もいないのをいいことにそう言ってみる。冗談の中に、少しだけ日頃の不満を混ぜ合わせて。
「悪かったよ」
肩に置いていた手を外すと、彼は子供をあやすようにわたしの頭をポンポンと叩いた。
難波さんがわたしの冗談に乗ってくれたことがおかしくて、思わず笑ってしまう。
「泣かせたお詫びに、昼飯奢ってやる。行くぞ」
「えっ、ちょっ……難波さん!」
難波さんはわたしの右腕を掴んで、わたしを引きずるようにして歩いていく。最早、強制連行状態……。
「他に予定があるなら断れ。何せ、部長様直々のお誘いなんだからな」
こういう時にだけ部長という単語を引っ張り出すなんて、卑怯だ。
「……パワハラ」
「何か言ったか?」
「……いえ」
本当はちゃんと聞こえていたのだろう。難波さんはいつかの夜のように、企みを孕んだ笑みを浮かべている。
わたしは仕方なく、水上ちゃんにメッセージを送った。
《難波さんに捉まった。ごめん!》
彼女から来た返事は《ご愁傷様です》という何とも救いのない言葉だった。