薬指の約束は社内秘で
まぶたよりもずっと重い体をなんとか起こす。
ベッドから足を滑らせ自然に足が向いた先は、トイレではなくクローゼットだった。

「正装してほしいって言われましても。ねぇ」

あまり選択肢のないクローゼットの中身を眺めて、昨日からもう何度目か分からないため息をついた。

簡単に作った朝食をもそもそと口にして、のろのろと掃除機をかけていたら、あっという間にお昼を過ぎた時間になってしまい、慌てて化粧をする。

結局自分の中では定番な黒のベアトップワンピースに、淡いベージュ色のミニボレロを羽織ってアパートを出た。


葛城さんに指定されたホテルは地下鉄で30分ほどの距離。

時間に余裕を持って出たはずなのに、すでに葛城さんの姿がロビーにあった。

「藤川」

カツッと軽い靴音を鳴らし近づいて来た彼は、上質な黒のスーツに上着にはポケットチーフを覗かせている。

いつもより艶感がある黒髪は前髪を少し立ち上げていて、端正な顔立ちをより一層凛々しくさせていた。

立ち姿だけでも分かる洗練された身のこなしに、近くを通りかかった女性から小さな吐息が漏れるほどで。
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