薬指の約束は社内秘で
首を横に振ることしか出来ない私に葛城さんは、「俺のせいで……」と喉から絞り出すように言葉を続ける。


そこでようやく彼の異変に気づいた。

数時間前まで綺麗にセットされていた前髪は、今は少し乱れて額にかかっている。

その隙間から覗く歪んだ瞳に、いつもの余裕げな態度とは違う様子に、

強く締めつけられた胸が張り裂けそうになる。


至近距離でやっと気づいた息遣いは少し乱れていて、きっとものすごく急いでドレスを探して戻ってきてくれたんだろうと思った。


飛び散ったワインは濡れタオルで綺麗に拭き取ったから、体のべたつきもないはずなのに。

いたわるように触れる指先からも、彼の想いを感じ取れる。


葛城さんの素顔を独り占めしたい――……

少し前の私はそんな風に思っていた。


でも、こんな顔を見たかったんじゃない。
こんな顔をしてほしかったわけじゃない。
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