薬指の約束は社内秘で
「これだって。きっと、払ってくれたんだよね」


二度目の長いため息をついたところで、扉の外からノックの音が聞こえてきた。

全身鏡の前で髪を少し整えてから、扉を開くと葛城さんが顔を覗かせる。

眉間の皺はさっきより和らいだものの厳しい表情は変わらずで。

二人だけの空間に静寂が流れていく。


「余計なことして、すみません」なのか。

「素敵なドレスを、ありがとうございます」なのか。


正しい答えはどれだろうと必死に頭を悩ませていると、ひんやりした指先が私の首筋にそっと触れる。

ピクッと肩を震わすのと同時に、息をのむ声が落ちてきた。



「ごめん」

初めて耳にする酷く掠れた声。

私を見下ろす深い影を含んだ瞳に、何か返さなくっちゃって思うのに――……

胸がギュッと締めつけられて声にもならない。
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