薬指の約束は社内秘で
「いえっ、あの! せっかく葛城さんが淹れてくれたコーヒーを飲みきらないとバチが……いや、勿体ないって思って。すぐにガッと飲み終えるまで、ここにいたいなぁーて思っただけで」

なるべく自然な笑顔で。でも心では頭を掻きむしりたい衝動に駆られた。


あぁ、もうっ。本当に、なに言ってるんだろう。時間がないって分かってるのに。

私は仙道さんに留守を任されて葛城さんをサポートする立場なのに、自分の気持ちを優先させるようなこと言ったりして……

私を気にかけてよく電話をくれる仙道さんの柔らかい声が頭を過り、罰悪くて仕方ない。

わざとらしい言い訳が恥ずかしくなり口を閉ざすと、静寂に短い声が響いた。


「ダメだな」

少しの迷いもない声。

「分かりました」と今度は自然な笑顔を浮かべた。次の瞬間――、



「そんな顔、説得力ない」

短い呟きが頬を掠めて左腕を引かれる。

「えっ」と漏れた吐息は柔らかい唇にさらわれ、薄く開いた唇から熱い舌先に入り込まれた。
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