薬指の約束は社内秘で
いままでは彼への想いを断ち切るのに必死で、瑞樹を思いやる余裕なんてなかった。

もしかしたら、つい最近まで――……
そう。葛城さんに出会うまでは、完全に吹っ切れてなかったのかもしれない。
だからいま、穏やかな心でそう思えるようになったことが嬉しい。

そう思うと不意に胸が締めつけられて目の奥がじんわりと幸せの熱を持った。


そんな風に瑞樹との思い出に思いを馳せていたのは、ほんの数秒。
現実に引き戻す柔らかい笑みが私に向けられる。


「お父さんに、大事にされてるんだな」

優しい響きが締めつけられた胸にじんわり染み入ると、

「俺も、大事にしないとな」

抱き寄せられた肩越しに低い囁きが溶けていく。

不意打ちのそれに言いようのない想いで胸が温かくなる。

もう何度目だろう、こんな気持ち。

言葉にしたら声が震えてしまいそうだから……

彼の気持ちに応えるように預けた体を葛城さんは優しく抱きしめてくれた。


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