薬指の約束は社内秘で
テーブルに両手をついて身を乗り出すと、愛美は両手で頭を抱え込んだ。
長い髪に差しこまれる白い指先。左手の薬指にはあるべきものがないことに気づく。

そう。ランチの時に気づいた異変の正体は、愛美がいつもつけている婚約指輪だった。
婚約したての頃は、お風呂と寝るとき以外はつけていると言っていたのに。

いつからだったんだろう? どうしてしなくなったんだろう……
どうして、私は見逃してしまったんだろう。

左手薬指に輝く『幸せの証』を初めて見たとき。
まだ新しい恋に踏み出せない自分と比べて、愛美がすごく遠い存在に思えた。

新しい恋が始まったら今度は自分のことばかりで、私はまた大切な人のサインを見逃してしまっていたの?

心のつぶやきに加速する鼓動がどうしようもなく煩い。
何かを話そうと口を開きかけてはやめる愛美に、私から口火を切った。

「婚約者の人と上手くいってないの?」

静かな問いかけにテーブル越しの彼女がハッと頭をあげる。
泣きそうに揺らぐ瞳に優しい声で続けた。

「それはもしかして、愛美に好きな人がいるから? それは——」

一度そこで言葉を止めて、煩い心臓に落ち着けと言い聞かせながら、大きく息をつく。
揺れる瞳をまっすぐ見据えて、「葛城さんなの?」と小さく声にした。
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