薬指の約束は社内秘で
『そんなの都合のいい言葉だろっ』

私のように心が弱い人間は、何か都合が悪いことが起きると何か理由を付けて逃げ出したくなる。
でも、彼は違った。


『…僕は、二人が運命の赤い糸に導かれて結ばれたなんてことは、思いません。
すべての出来事、結果には、それに至るまでの原因があります』


一見冷たいと思える言葉の裏には、運命にも翻弄されない強い意志があって、そんな彼に少しでも近付きたいと、努力しようと思ったことを思い出す。


田村君から彼を庇ったあのときは、彼を苦しめるものから守りたいと体が勝手に動いた。

『俺のせいで——ごめん』

初めて耳にする弱々しい声に、乱れた前髪から覗く切なげな瞳に、胸が張り裂けそうになったことを——
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