薬指の約束は社内秘で
「私は大丈夫です。葛城さんが思うより、ずっと強いんですからっ」

自分に言い聞かせるように声を張ると、一瞬流れる沈黙の後。


「少し考える時間が欲しい」

静かな声が鼓膜まで響いた。




その後のことは、よく覚えていない。

ふらふらと会社を後にして、いつものように混み合う電車に揺られ駅に着く。

脳裏を駆け巡る彼の影を振り切るように、人で溢れる商店街を足早にすり抜けながら先を急いで、アパートの部屋まで辿り着く。電気も点けずにベッドに倒れ込んだ。


でも、頭から追い払おうとすればするほどその存在は鮮やかな色を放ち、心を捕えて離さない。

葛城さんに助けられてホテルで目覚めたあの日。
瑞樹との再会を運命だと言ったら、冷たく吐き捨てられた。
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