薬指の約束は社内秘で
「やっぱ。女は純白の白だよな——ってことで。さっさとそれ着て、化粧して降りてこいよ!」

大地はそれだけ言うと、バタンッとドアを閉めて部屋を後にした。

化粧って、お客さんが来てるのかな?


築十数年の1階は父がひとりで経営する和風居酒屋の造りになっていて、カウンター席とテーブル席が8つほどの手狭いスペースだけど、毎晩のように店を開いて30分もすれば満席になる。

それは舌を唸らす料理というのもあるけれど、町内会長をもう何十年も続けて、情に厚い性格の父を慕ってお客さんが集まるこの店は、町の駆け込み寺のような存在だ。


幼い頃、瑞樹と出会ったあの日。お父さんは町内会の仕事で家を空けていた。

待てども帰ってこない父に誕生日を忘れられたと傷ついた私は、留守番に来てくれていた叔母さんの目を盗んで、家を飛び出した。そして、あの場所で彼と出会った。
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