薬指の約束は社内秘で
『藤川はどうして、うちの会社に入ろうと思った?』

あのとき、どうしてあんなことを聞くんだろうと少し思った。
あのとき、もっと話をしなければいけなかったのかもしれない。


そんなことを悔やみ、ふと見上げた夜空に白い光が線を描くように横切る。体の奥底から突き動かされるような想いが込み上げて、


「瑞樹、ごめん。私、行かなくちゃ……」


ポロリと漏れた呟きに瑞樹が小さく笑うのが分かった。
踵を返して走り出す私の背中に、「やったぁ!」とふたりから明るい声がかかる。

一度足を止めて彼らに手を振ると、ちょうど店から出てきたお父さんがこちらに小走りでかけてくるのが見えた。


「おう! そろそろ戻って来い。お客様がお待ちかねだぞ!!」

お父さんに腕を取られる。でも、それを反対の手で押さえた。

「お父さん。私、どうしてもっ、行かなきゃならないの」
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