薬指の約束は社内秘で
重苦しい沈黙が流れ、愛美は椅子からゆっくり立ち上がると口を開いた。


「婚約者の彼が……浮気してたの。それで婚約破棄を親に相談しようとしたら先に手を回されていた。彼、詐欺師のように口が上手いの。だから彼の浮気も、マリッジブルーからくる私の勘違いだって。

親は彼の方を信じたの。昔から、世間体ばかりを気にする親だから、その方が都合がよかったのよ、きっと……」

愛美はそこで大きく息をつき、チェストの上に置いてあるアンティークの時計を右手でそっと撫でる。


「どうすればいいか悩んでいたときに、何も知らない愛はこの時計をくれた。

アンティークのすごい高いものよね。無理して買ってくれたんだって思ったら、祝福してくれるって思ったら……言えなかった。だから、いつものように我慢して、私が……我慢すれば、すべて丸く収まるって思った。

だって昔からそうだったから。佐々木先輩のこともそうやって諦めた。それでいいって納得してきた。でも――っ」

そこで苦しげに顔を歪ませた愛美は、熱を持った瞳で私を見据える。
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