薬指の約束は社内秘で
田村君は「痛ぇな」とでも言いたげな顔を斜めに引き上げて、相手があの『経営統括室の葛城さん』だとわかると、一瞬で頬を引き攣らせた。

「すっ、すみません! お怪我はありませんか!?」

その場にひれ伏す勢いで、頭を下げる田村君に。ちょっと……いや、ものすごくドン引きだ。
(あんなに分かりやすい性格だったんだ)

そして田村君はそのままの勢いで、廊下に散らばる書類をものすごい速さで掻き集める。

それを黙って見下ろす葛城さんの姿に。ちょっと……いや、ドン引きどころの話じゃないってば!

後ろから見ていた感じだと、いまのは葛城さんだって悪かった気がするのになぁ。

葛城さんは必死な表情で書類を手渡した田村君を前にしても、冷ややかな声で「どうも」と一言告げるだけ。
無言で書類に目を通す葛城さんに田村君もそれ以上何も言わず、その場を立ち去ろうとした、そのとき。
凍てついた声が廊下に響いた。

「今日は、全部揃ってるな」

その言葉に動きかけた田村君の足がピタリと止まる。一瞬流れる沈黙の後、葛城さんは鋭い瞳を田村君へ向けた。
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