薬指の約束は社内秘で
「あのときは上手くやったつもりだろうけど、残念だったな」

その言葉がどういう意味かは、わからない。
でもそれは鋭い切れ味で田村君を蒼ざめさせ、彼の唇が震え出すのがわかった。

張りつめた緊張感のようなものが二人の間に流れていく。
田村君は耐えきれないように踵を返すと、エレベーターではなく階段を駆け降りていった。

そして駆け降りる靴音が聞こえなくなると、葛城さんが呆れたような瞳で見つめてきた。

「なんだよ、そのまぬけ面」

「え? いえ、田村君がすごい顔してたから……」

葛城さんは、どんな魔力を使ったのかなって。

そんな心の呟きは、つい数秒前のブラック葛城さんを前に背筋が震えて冗談でも言えない。

「なにか意味ありげでしたけど、彼と何かあったんですか?」

いくら葛城さんが噂通りに冷徹でもねぇ。
ちょっとぶつかったくらいで喧嘩をふっかけてたら、私なんて、今頃どうなってるのか。
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