薬指の約束は社内秘で
微かな音を立て開いた扉の先にはふたりの女子社員の姿があり、彼女達がハッと息を呑むのが分かった。
すると、これまで微動だにしなかった彼に異変が――。
眉間に皺を寄せ、ため息をつく。
その対象は明らかに、狭くもない庫内で彼にすり寄った二人組だろう。
「こんにちは」とトーンの高い声があがれば、「どこかへお出かけですか?」と、もうひとりの子も負けじと前に出る。
彼はひとつの挨拶に「こんにちは」と機械的な口調で返し、もうひとつの質問に自分が持っている書類を見せた。
「あぁ。今日は外で打ち合わせなんですね」
そして連想ゲームの答えが正解とばかりに小さく頷く。
そんなやり取りがこの数秒間で何度か繰り返され、さすがに二人組も諦めたらしく彼と距離を取った。
二人との距離感に満足したのか、眉間の皺は徐々に消え、元の涼しげな顔に戻った地蔵を横目に思う。
地蔵というか、不愛想。クールというか、女嫌い。
そんな結論に達したところで、不愛想な地蔵男を諦めた二人組は社内の噂話をし始めた。
「そういえば、瑞樹さん。海外研修から帰ってきたんだね」
「えっ、そうなの!?」
思いがけず飛び出た名前に、今朝一年ぶりに見かけた彼の姿が頭を過った。
清掃が行き届いたガラス張りのロビーの外で、社長専用車に乗り込む白髪の男性と瑞樹の姿があった。
何度も触れた少し癖のある髪。
それが雨上がりの湿り気ある風に揺れると、「くっくり二重の童顔が嫌だ」と言っていたあの頃より、ずっと精悍になった横顔が見えた。
この会社に入社する1ヵ月前。いまから3年前に私達の関係は終わっていた。
すると、これまで微動だにしなかった彼に異変が――。
眉間に皺を寄せ、ため息をつく。
その対象は明らかに、狭くもない庫内で彼にすり寄った二人組だろう。
「こんにちは」とトーンの高い声があがれば、「どこかへお出かけですか?」と、もうひとりの子も負けじと前に出る。
彼はひとつの挨拶に「こんにちは」と機械的な口調で返し、もうひとつの質問に自分が持っている書類を見せた。
「あぁ。今日は外で打ち合わせなんですね」
そして連想ゲームの答えが正解とばかりに小さく頷く。
そんなやり取りがこの数秒間で何度か繰り返され、さすがに二人組も諦めたらしく彼と距離を取った。
二人との距離感に満足したのか、眉間の皺は徐々に消え、元の涼しげな顔に戻った地蔵を横目に思う。
地蔵というか、不愛想。クールというか、女嫌い。
そんな結論に達したところで、不愛想な地蔵男を諦めた二人組は社内の噂話をし始めた。
「そういえば、瑞樹さん。海外研修から帰ってきたんだね」
「えっ、そうなの!?」
思いがけず飛び出た名前に、今朝一年ぶりに見かけた彼の姿が頭を過った。
清掃が行き届いたガラス張りのロビーの外で、社長専用車に乗り込む白髪の男性と瑞樹の姿があった。
何度も触れた少し癖のある髪。
それが雨上がりの湿り気ある風に揺れると、「くっくり二重の童顔が嫌だ」と言っていたあの頃より、ずっと精悍になった横顔が見えた。
この会社に入社する1ヵ月前。いまから3年前に私達の関係は終わっていた。