薬指の約束は社内秘で
そんな風に過ごして3年が経った。

入社して3年目ともなると一見地味と思える仕事でも、やりがいを見つけて楽しめるようになっていき、所属する販売部3課の仕事は残業も多いけれど、それなりに充実した日々を送っている。

週末を埋めるように通っていた英会話と茶道の腕はずいぶん上達したし。
同期入社の子より多く残業をしてきたせいか、責任ある仕事を任されることも多くなった。

そう思うと無駄な時間じゃなかったよ。こうして人間って成長していくんだね。

そう笑えるようになるまで時間はかかったけど、いまは新しい恋を始めたい気持ちだってある。
(そっち方面が3年もご無沙汰してるのは……縁がなかっただけの話だし)

久々に懐かしい気持ちが蘇ったのは一年ぶりに彼の姿を見たから。そう、他に理由なんてない。

微かに震えてしまった胸にそう言い聞かせる。
その間も噂話を続ける彼女達は地蔵の存在をすっかり忘れ、声のトーンを上げていった。

「そうそう、瑞樹さん。週末にまたお見合いだって。今度は会長も同席するらしいよ」

「いよいよ結婚かなぁ? あーぁ。また玉の輿候補がいなくなったよ」

「だねー。婚活頑張ってみるかぁ」

彼女達は声を弾ませながら停止したエレベーターの外へ足を向けた。
ようやく訪れた平穏にホッと息をつき、梅雨入り前の今日の天気のように湿っぽくなった頭を軽く振る。

「よーし、負けないように頑張らなくっちゃっ」

思わず漏れた呟きは、来週予定されている社内プレゼンに勝利して、退職する課長の花道を飾る為の気合の言葉だったのに。

「すげぇ気合い。見た目より年いってんのか」
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