ワンコそば
 少女が「そろったね、夕飯にしよう」と言って立ち上がると台所に消えた。

少女の父親と二人きりになり、少年は気まずさに下を向いたままでいた。

おやじは胸ポケットから煙草を取り出すと火をつけて大きく吸い込んだ。

天へ向かって息を吐き出す。

白い煙が大きく広がった。

おやじは少年に煙草を差し出した。

きょとんとして首をかしげる。

吸えってことなのかな?

少年の父親はタバコを吸わなかったから扱い方がわからず、タバコを1本取ろうとする指先が小刻みに震えてしまう。

「なんだおめぇ、タバコ吸ったことねぇのか?」

おやじがにやりと笑った。

「名前は?」

「久木…」少年がぼそぼそと答えると、

「ひさぎ、何?」低い声で脅す。

「久木玲央…です」

玲央はうつむき、ちらとおやじを見る。

「レオかあ。強そうな名前なのに見た目はシマウマみたいだなあ」

ああ、だから名前は言いたくなかったのに…!

「俺は土岐枝佑造。あっちが娘のきいろ」

「きいろ…」

彼女の名前はきいろというのか…そんな心の声が漏れた。

「俺の名前はどうでもいいみてぇだな?」

「す、すみませんっ」

少年はまたうつむいてしまった。

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