ワンコそば
 二人の笑顔とは裏腹に佑造は怒りを露わにして電話を切った。

「ね、言ったとおりでしょう?」

玲央は目を細めて表情も変えずに言った。

「部屋にいるなら起こしてでも呼んできてくれ、緊急だからと言ってるのにお前の母ちゃん電話を置く素振りもねぇ。

あれじゃあ息子が部屋にいてもいなくてもわからねぇじゃねぇか!」

「母さんと言っても血はつながってないから」

目の前の男が憤慨しているのは自分のためだと思うと玲央は嬉しくなった。

「おめぇの母ちゃんは?」

気分を落ち着かせようと佑造は胸ポケットから煙草を取り出し火をつけた。

テーブルの灰皿は新しいものと取り換えられていた。

「僕が7歳の時に…交通事故でした」

それは突然だった。

亡くなった、と言葉で聞かされただけだ。

7歳の子供にお通夜だの葬式だのよくわからなかった。

白い顔の母によく似た女が横になっているだけで、あれは母ではないと思っていた。

あの日以来母がいなくなった…死を理解できたのはもう少し後になってからだった。

「電話の女が継母か?」

玲央は頷いた。

「12歳の誕生日に新しい母が家にやってきました。1つ下の義妹を連れて」

「なるほどなあ…そりゃ家にも居辛いわなあ」

煙草を深く吸い込んで大きく吐き出す。

え?そうなの?ときいろはきょときょとしている。

「飯も一緒に食ってねぇの?」

「…」

暫く黙ってから「中学が給食だったから助かりました」玲央は顔を上げた。

佑造は色白で痩せ細った少年の体つきを憐れむ目で見つめていた。

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