真っ暗な世界で
だが、実は私、ローズの香りは好まない人間だ。私個人の意見として、どちらかというとラベンダーのほうが好ましい。


咲洲から香ったローズは柔らかいから嫌いではないが、できるだけ早く離れたい。


それに、私は咲洲に聞きたいことがあるのだ。


「離れて。聞きたいことがあるの」


咲洲の身体を押すと、それに従って咲洲の身体は離れる。


「ん?なんだ?」


「あなたが言ったように、自分のことを話した。けど、皆さんには伝わらなかった。何故」


私がそう言うと、咲洲は堰を切ったような笑い出した。


自分は至って真面目なことを聞いた。笑われるようなことは何一つ言ってはいない。それなのに、突然笑い始める咲洲は、やっぱり理解不能だ。


そういえば、広間に居た時もこの話になると笑っていた。この話に咲洲の爆笑スイッチでもあるのか。


咲洲の笑い声を右から左へ聞き流しながらそんなことを考えていると、咲洲がヒィ……ヒィ……と喘ぎながら深呼吸をした。


「あんた、無自覚なんだ……。ハルは無口すぎて淡白なんだよなぁ。もちっと前置きするとかさぁ……」


「必要なこと以外話す必要はない」


「筋金入りの無口かよ!それでも、少しくらい余計な修飾語、入れてやれよ。ハルが伝えたいことが半分しか伝わんねぇぞ」


咲洲の言葉に頷いた。修飾語を入れるといいのか。


「はい、言ってみよー!嬉しいです。はい、これ!」


「恐悦至極」


「何その四文字熟語!?ちがうから!修飾語をつけて言ってみろってやつ!」


「誠に恐悦至極」


「……誠に!?誠には求めてねぇや。単純にとても嬉しいです。はいこれでオッケー」


咲洲の解答じゃ、まるで……。


「幼稚園児だ」


ボソリと咲洲に聞こえないように呟いた。










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