身代わり王子にご用心





食品売り場への移動……なんて。 私にはとても魅力的な提案だった。


だけど……私は素直に首を縦に振ることができない。


「で、でも……わ、私はいいんですけど。その……私の後には誰かが来るのですか?」

「それならご心配なく。食品売り場担当だった坂上(さかがみ)さんが雑貨売り場になりますから。彼女が腰痛で、軽い仕事に替えてくれと申し出てきたんです」


坂上さん……たしか四十代の貫禄がある女性社員さんだったっけ。高校生と大学生のお子さんがいらっしゃる。


「坂上さんなら、大谷さん程度は鼻で笑って相手にしないでしょう。だから、遠慮なんて必要ありませんよ」


一番の懸念だった大谷さん問題をサラリと解決され、私は信じられない気持ちでいた。


……食品売り場に行ける。正確には配置替えだけど。少なくとも当分はあんな理不尽な仕打ちを心配しなくていいんだ。


「あ……ありがとう、ございます! 本当に……なんてお礼を言ったら良いのか……」


思わず笑顔になってから、桂木さんに向かって深々と頭を下げた。どんなに感謝してもしたりない。いくら配置替え希望者がいても、彼の機転がなければ私が食品売り場にいけなかったに違いないから。

< 128 / 390 >

この作品をシェア

pagetop