身代わり王子にご用心
「桐子、あんまり人のプライベートに足を踏み入れるなよ」
開いたドアから呆れたように顔を出したのは、熊さん……もとい、物部さんで。その彼を押し退ける様に救護室に入ってきたのが、桂木さんだった。
「水科さん、何か必要なものはありますか?」
彼は袋からデザートやお菓子やジュース類を出して近くのテーブルに並べる。 それにソロリと手を近づけた人がいた。
「わぉ! これ数量限定のイチゴのフロマージュじゃん……いてっ!」
「桐子さん、いつも言ってるでしょう。他の人が選んでからにしてくださいと」
「ええ~いいじゃん! カッちゃんのけちんぼ」
まるっきり小学生レベルのやり取りに、可笑しくなって自然に肩から力が抜ける。そんな私を見た曽我部さんが、
「おっ! 気分が良くなって何より。はい、これ!」と渡してくれたのは、さっきのイチゴのフロマージュ。
「気分が悪い時もそれならツルッと食べられちゃうよ~甘酸っぱくて後味が爽やかだから」
「はい、ありがとうございます」と厚意をありがたく受け取り、フィルムを剥がして遠慮なくいただく。
和気あいあいとした賑やかさに身を置いていると、いつの間にかあの影が遠ざかっていくのを感じた。