身代わり王子にご用心



「あ、ありがとうございます……」

「なあに、息子が世話になったお礼だよ。やんちゃな息子もあんたの言うことなら聞いてたくれたもんね。
その息子も桜花ちゃんに一目惚れして、すぐ告白したけどあえなく玉砕した時は笑っちゃったわ~」


あっはっは、と豪快に笑う坂上さん。確かに、集団の登下校の時に坂上元くんっていう元気な男の子がいたっけ。今の今まですっかり忘れてたけど、豪快に笑う様がお母さんにそっくりだから思い出した。


蓮の池がある公園でよく行方不明になってたなあ……と懐かしい気分に浸っている時に。ふとあるものを思い出した。


「あの、坂上さん」

「ん、なんだい?」

「学区内で……ガラス張りのお家とかありましたっけ? もしくは窓ガラスが大きなお家とか」


ふいに脳裏に甦ったある光景。視界いっぱいにガラスが輝いて、その中にあった綺麗な宝石。それがきっと、忘れられなかった色なのかもしれない。


「ガラス張りのお家……ねえ。そんなものはないけど」


う~ん、と考え込んだ坂上さんだけど、あれ? と額に指をつけて唸った。


「待って! たしか近いものはあったかな……十年以上前に取り壊された家が……う~ん……ごめん! ここまで来てるけどすぐには思い出せない。思い出したらまた言うわ」

「あ、すいません。無理しなくてもいいですから」

「いいや! 他ならぬ桃花ちゃんのためだから。ダンナや息子たちにも訊いてみるわ」


任せて! と坂上さんが胸を叩いたけど。それほど大それたことにしなくていいですってば。


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