身代わり王子にご用心




その日は何だかすっきりした気分で仕事を終えられた。坂上さんが大谷さんを撃退してくれたからな。


本当なら自分で言うべきだっただろうけど、私が何を言っても彼女は百倍返しをしてくるからな。たとえそれが正論でも、大谷シンパの社員やバイトで数で負けるし。


「桃花さん!」


仕事を終えたらしい藤沢さんが手を振って私に追いついてきた。


「やっと終わりましたね! 晩ごはんは何を作ります? よかったら私がバジルのパスタを作りますよ」


社員割引を使って購入したらしい食材を見せながら、照れ笑いをする彼女。初々しくて何だかこちらまで幸せな気分になれそうだ。


「そうね。だったら私はコブサラダでも作ろうかな」


確か合鴨のスモークがあったはず、と冷蔵庫の材料を思い出しながらロッカールームのドアを開けると、途端に嫌な臭いが鼻をついた。


「うわっ……何これ? すごく生臭い」


藤沢さんが鼻を手で塞ぎ、私もハンカチで鼻を押さえる。何かと思って中に入ると、人だかりができてた。


「あれって……桃花さんのロッカーじゃないですか?」


さきに入った藤沢さんが何気なく出した言葉に、嫌な予感が頭をもたげる。


まさか……。

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