身代わり王子にご用心



「ちょっと、水科さん。あんたのロッカーが大変なことになってるよ」


惣菜担当の田中さんが私を見つけた途端、制服の袖を引っ張って強引に連れて来られたのは。私に割り当てられたロッカー。


基本的にロッカーは社員とパートアルバイト、更にはテナントごとに区分けされ貸されてる。その中でも更に一階と二階の従業員に分かれてる。だから、私のロッカーはつい先週売り場移動と共に変わったばかり。


基本的に貴重品管理のため一人でひとつのロッカーを使い、鍵もかける義務がある。その鍵は個人管理で、誰かに開けられるはずはないんだけど。


私に割り当てられたロッカーは、確かに鍵が閉まってた。だけど……。


ロッカーの扉……下の隙間から、黒い墨みたいな液体がこぼれ落ちてる。それだけじゃなく、赤い液体も混じってた。


「何これ?」


私が立ちすくんだままでいると、藤沢さんに背中をつつかれた。


「桃花さん……とりあえず開けてみましょう。怖いならわたしがしますよ」

「う、ううん……いい。ありがとう」


5つも年下の女の子に気を使わせて情けない。しっかりしろ! と自分を叱りつけ、震える手で鍵を鍵穴に差し込む。


カチリ、と確かな手応えがあってからゆっくりと扉を開くけど。恐ろしかった。


明確な悪意が牙を剥いて飛び出して来そうな気がして。


やがて、見えてきたのは。


無惨に切り裂かれ原型を留めない制服と、生ゴミやあらゆる絵の具をぶちまけられた内部だった。


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