身代わり王子にご用心



大谷さんが私を憎んできた真の背景が、ようやく明るみになってきた。


やっぱり、大谷さんはカイ王子を好きになっていたんだ。たとえ9歳の差があっても、諦めきれなかったんだろう。


けれど……大谷さんの実家は間もなく没落してしまって。彼女はきっとすごく苦労したんだろう。お嬢様育ちだけに、尚更辛かったに違いない。


けれど、だからといって。


「だけど……あなたが私にしてきたことは、許せません。命の危険さえあったし、犯罪の濡れ衣を着せられて。小学生の時のあなたのいじめがきっかけで、私はすっかり自信を失い人生が変わってしまいました。
たとえ今どんなに言葉を尽くし謝罪されたところで、許せません。失ったものは二度と取り戻せないのですから」

「わかってます……この拘留部屋にいて、一人で考える時間が増えたぶん。自分がどれだけ勝手で人に迷惑をかけたか……ようやくわかりました。
それから……朱里のビデオをみせてもらって。子どもにさえ自分がどれだけ歪んだ接し方をしたのか、を痛感しました」


ビデオ……?


それを聞いて、ピンとわかった。きっと昨日桂木さんが撮影したものだろう。それを大谷さんに見せるために警察署まで持ってきたんだ。


「朱里が……あんなに明るく笑えるって。忘れてました……母親なのに。どれだけ勝手な親だったか……朱里の笑顔が教えてくれました」


そして、大谷さんは再び頭を下げる。


「朱里があなたと同じ目に遭うと思っただけで……身を切られそうな思いがします。勝手なものですけど。本当に、今まですいませんでした……これからは全てを正直に答え、裁かれた後の判決には素直に従おうと思います。
頼める立場でないのはわかってますが。どうか……朱里をよろしくお願いいたします」


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