身代わり王子にご用心



翌日は部屋の片付けや必要なものの買い出しに掃除、と慌ただしく1日が過ぎた。


表通りから少し外れた裏通りにあるこのアパートは、静かな環境で近くに公園もあり気に入った。


ご近所は花を愛する一人暮らしのおばちゃんと、新婚の若夫婦と芸術家志望の学生。裏庭には小さな庭とベンチがあって、天気のいい日はお茶会ができるみたい。


ヴァルヌスの秋の天気は晴天に恵まれることも多いけど、山が近いから崩れる時は急だと教えてもらえた。


ハプスブルグ帝国時代から残る石造りの古い街並みが続くカッツエの旧市街。川向こうは比較的新しい建物が並ぶ新市街。遠くには早い雪を戴くアルプスに続く青い稜線。町から少しいけば緑が深い森林が広がる自然が豊かな土地だった。


すっかり一人暮らしの準備が整ったアパートは、広い部屋を仕切りで寝室と居間に分けた。さすがに着替えをおおっぴらに見せる訳にはいかないもんね。


(向かいのアパートの窓から中がよく見える)


「さて、明日はいよいよ初仕事だ」


明日に着る白衣や帽子にしっかりとアイロンをかける。


いよいよ私が料理人として本格的にデビューする日。気合いをいれて頑張らなきゃ!


(カイ王子に会えるようになるために……頑張るぞ)


緊張から食欲がなくて、サンドイッチで軽くお腹を満たしたあと、ぬるいシャワーを浴びて早めに眠りに就いた。


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